FC2 トラックバックテーマ:「思わず買ってしまった!ムダなもの、変なもの」ウォール街で相手にされなかった、ソープの理論。
ところが思わぬ人間が飛びついた。 数学や物理学を専門にする科学者だ。
自分たちの知識を使えば、市場の値動きを読み解く、画期的なトゥルースを
見つけ出せるはずだ。 ソープが本を出版して6年。 1つの数式が現れた。
数字や物理の歴史に詳しい社会科学者は、言う。
“ブラック・ショールズ方程式です。 この方程式が金融業界を変えました”
数学者フィッシャー・ブラックと、経済学者マイロン・ショールズの2人が生み
出した数式だ。 (※数式は複雑すぎて記入できませんでした)
例えば、株の値動きをこの数式に入力すると、ワラントだけでなく、さまざまな
金融派生商品の適正な価格が、はじき出せる。
ソープを取材したウォールストリート・ジャーナルのジャーナリストは、言う。
“この数式は、株式市場に革命をもたらしました”
“基本的にはソープの考えと同じですが、学問的に理論を完成させたのです”
“この方法は、急速に広がりました”
更に、ブラック・ショールズ方程式には、これまでにない特徴があった。
正確な価格がつけられるというのは、売り手にとって大きなメリットだ。
数字や物理の歴史に詳しい社会科学者は、言う。
“ソープが、いかに買い手が損をしないかという視点に立っているのに対して、
ブラック・ショールズ方程式は、証券会社や銀行など、売る側の視点に立って
いました”
“つまり金融商品をいくらで売ればよいのかを知るのに、大変都合が良かった
のです。 その結果、次々と商品が生まれ、市場は大きく成長しました”
この新たな市場に参入して来たのは、金融とは、縁もゆかりもない人たち。
ロケットサイエンティストだった。
1960年代、アポロ計画から始まった、アメリカの宇宙開発。
この国家プロジェクトは、80年代に入って、徐々に縮小。
大量の科学者たちが、職を失っていた。
そんな彼らが、ウォール街に押し寄せたのだ。
科学者たちは、ブラック・ショールズ方程式を応用して、次々と金融商品を作り
出した。 物理学者の彼も、その1人。
“研究職への道が閉ざされていたので、金融業界で働いてみる事にしました”
“金融業界での仕事は、物理学者としての仕事と、ほとんど変わりありません
でした。 とてもエキサイティングでしたよ”
“年俸も15万ドル。 医者や会計士並みの待遇でした”
“いつも、トゥルースについて考えていました”
“物理学の様な公式が、金融の世界にもあるはずだと信じていましたからね”
急速に進化していた、コンピューターを駆使する科学者たち。
銀行や証券会社で、中心的な役割を担うようになって行く。
1994年ブラック・ショールズ方程式の生みの親、経済学者マイロン・ショールズ
博士が、運用会社を立ち上げ、自ら、投資の世界に乗り出す。
ロングターム・キャピタル・マネージメント。 通称 LTCM 。
(Long-Term Capital Management)
経済学者マイロン・ショールズの当時のインタビューより。
“私が共同経営に乗り出したのは、自分たちの理論を確かめるためです”
彼らはブラック・ショールズ方程式を駆使して、毎年40%という信じ難い利益を
上げ続けた。
1997年には、マイロン・ショールズ博士が、ブラック・ショールズ方程式の功績
により、ノーベル経済学賞を受賞。
LTCMは、金融界のドリームチームと呼ばれ、更に投資家たちのマネーが
集まった。
彼らが運用する資産の規模は、当時の日本の国家予算の、およそ6分の1、
12兆円にまで膨らんだ。
ソープを取材したウォールストリート・ジャーナルのジャーナリストは、言う。
“この頃、ショールズ博士たちが率いるLTCMは、飛ぶ鳥を落とす勢いでした”
“自信過剰だったと言っても、過言ではありません”
“自分たちの投資は安全だ。 損をする事は、ありえない。 我々は正しい”
“なぜならノーベル賞をとった博士がリスクを管理し、戦略をアドバイスするの
だから!”
だが、ノーベル賞を受賞した翌年、LTCMの進撃が陰りを見せる。
思うように利益が上がらない。
実は、ライバルの銀行などが、公表されたブラック・ショールズ方程式を使い、
LTCMの真似をして、同じ取引をし始めたのだ。
LTCMは、より利益が見込めるものを探し始める。
白羽の矢が立ったのがロシア等、当時、新興国と言われた国の国債だった。
金利も高いが、リスクも高い。
ブラック・ショールズ方程式は、ロシア国債を割安と判断していた。
だが、ここで思わぬ事が起こった。
ロシアが財政危機に追い込まれ、ロシア国債の価格が、目に見えて下がり
始めたのだ。
ショールズ博士たちLTCMは、ロシア国債の下落を、一時的なものと判断。
更に、ロシア国債を買いあさった。
ブラック・ショールズ方程式によると、ロシアが財政破綻する確率は0.0003%。
言いかえれば、100万年に3回の確率。
ショールズたちは、起こるはずがないと考えていた。
1998年8月。 その、ありえない事が、現実になる。
ロシアのエリツィン大統領が、デフォルト 債務不履行を発表。
この瞬間、LTCMが保有していた大量のロシア国債は、紙クズとなった。
ソープを取材したウォールストリート・ジャーナルのジャーナリストは、言う。
“ショールズたちの判断は、明らかに間違っていました”
“彼らは、数式に頼りきっていて、市場は予想通りスムーズに動くはずだと、
信じきっていました。 目の前に迫っている現実より、数式を信じたのです”
ブラック・ショールズ方程式を応用し次々と金融商品を作り出した物理学者は言う。
“LTCMの人々は、豊富な知識を持ち、戦略も、しっかりとしていました”
“ですから、彼らの事業が失敗したのはショックでした”
“その時、私は確信しました。物理学と市場の世界は似て非なるものだと…”
“人間がパニックになると、どんな行動をとるのか?”
“そのとき価格がどう動くのかを計算するのは物理学の世界では不可能です”
“金融の世界は、物理の世界とは、全く違っていたのです”
ショールズ博士率いるLTCMは、破綻。 損失は、46億ドルに上った。
ノーベル賞を受賞した、ブラック・ショールズ方程式。
その生みの親であるショールズ博士の会社は、なぜ失敗し、破綻に追い込ま
れてしまったのでしょうか?
あらゆる数式には、成り立つ前提というものがあります。
ブラック・ショールズ方程式は、平時を前提に作られていました。
金融危機の様な非常時には前提そのものが崩れ、成り立たなくなるのです。
金融工学は、特殊な科学です。 実験室で実験する事ができません。
ショールズ博士の言葉を、思い出してみましょう。
自分たちの理論を確かめるため (マイロン・ショールズ)
実験するためには、実際に、市場に資金を投入し、取引するしかないのです。