FC2トラックバックテーマ 第2112回「見慣れない出来事」2019年5月、アメリカ・ニューヨークで行われたオークションで、ある美術品が、
驚きの価格で落札されました! 8000万ドル(手数料込みで9100万ドル)
日本円にして、約100億円の値が付いたのが… こちらの現代アートの作品。
高さ1メートルほどのステンレスで出来た風船ウサギの彫刻です。
(ジェフ・クーンズ作 / ラビット)
存命中のアーティストの作品としては、史上最高値となりました。
オークション担当者は、言う。
“あの夜の事は忘れられません。 私の仕事人生で、最も興奮した瞬間です”
近年、高騰する一方なのが、現代アートのお値段。
村上 隆 作/マイ・ロンサム・カウボーイ の彫刻が、約16億円。
アンディ・ウォーホル 作/リズ の絵が、約36億円。
元ファッション通販サイトの創業者が購入した油絵は、なんと123億円!
(ジャンミシェル・バスキア作/無題)
なぜ、現代アートに、こんな高値がつくのでしょうか?
芸術の値段が決まる、その裏側に迫りました。
ここは、アメリカ・ニューヨーク。
街のそこかしこに、斬新なオブジェが展示されている、世界の現代アートの
中心都市です。
100億円の風船ウサギの彫刻を作ったのは、ジェフ・クーンズ。 現在64歳。
アメリカのポップカルチャーをテーマとした作品が、ことごとく高値で取引される
現代アートの申し子です。
クーンズに詳しい、アート・アドバイザーを訪ねました。
100億円で落札された、風船ウサギの彫刻。
しかし、作られた当初の価格は、400万円でした。
アドバイザーは、作品の価格を押し上げるのに重要な役割を果たした存在が
あるといいます。
“アーティストを見い出すのが、ギャラリーの仕事です”
“ギャラリーが、アーティストを育てるシステムがあるのです”
ギャラリーとは、美術品の展示や販売を行う、画廊の事です。
しかしアメリカでは才能あるアーティストを発掘し育てる事が、とりわけ重要な
役割です。
ギャラリーは、これぞというアーティストを見つけると、付き合いの深い美術
関係者に呼びかけ、チームを作って売り出します。
ギャラリー経営者は、言う。
“ギャラリーに行けば、次にスターになるアーティストが誰なのか分かります”
“ギャラリーの役割は、アーティストを見い出し、光を当てる事です”
あのクーンズも、風船ウサギの彫刻を作った1986年、大手ギャラリーに見い
出され、チームでのサポートが始まりました。
まず、作品に価値を与えたのが、有力な批評家の評論です。
“クーンズは、まさに俗っぽい王子様である”
“クーンズの才能は、階級・人種・マネー・卑わいさ・美しさ・パワー・欲望という
問題を提示する謎めいた泉なのである”
抽象的で難解な現代アートは、影響力のある批評家が、作品に解釈を与える
事で、まず、その価値を高めます。
そして、クーンズの作品の価値を決定的なものにするのが、コレクターです。
ニューヨークの不動産王にして、現代アートのコレクターの男性。
“これは、奈良美智の作品。 これは、村上隆の作品”
“これが、ジェフ・クーンズの作品です。 ここ最近のものでは、最高傑作です”
こちらの巨大な風船ウサギの彫刻も、自慢のコレクションです。
名のあるコレクターが、作品を所有している事がクーンズの信用を高め、現代
アート作家として、最高位の評価を得る事になりました。
“コレクターが、重要な役割を果たす事が少なくありません”
“これぞというアーティストを世に出し、人々に、その作品を知らしめる事で、
それを買いたいと思う人を増やして行くのです”
有力な批評家による評論。 そして、有名なコレクターが所有したという来歴。
それが、ひとたびオークションに出品されると一気に世界中のマネーが殺到。
瞬く間に、バブルさながらの100億円という価格にまで高騰しました。
オークション担当者は、言う。
“このオークションには、34もの国から参加者が集まりました”
“ここ20年でアート市場の国際化は著しく進み、以前は参加しなかった国々が
オークションに群がっています”
ギャラリーに見い出され、成功への切符をつかもうと、若いアーティストが、
国内外からニューヨークにやって来ます。
こちらの女性も、クーンズのようなスターを夢見て、3年前、台湾からやって
来ました。 この日、女性は、アーティストとして重要な局面を迎えていました。
海外とつながりを持つ著名なギャラリーに見せる為の、こん身の1枚を描いて
いるのです。絵が認められればギャラリーと契約を結ぶ可能性も出て来ます。
“この絵に、私の人生がかかっているの!”
ギャラリーに絵を見せる日。 ギャラリー経営者の男性です。
“これが作品です。 あなたに初めて私の絵を見せるので緊張しています…”
‘いやいや、気に入ったよ’
‘筆の運びにエネルギーを感じるし、色使いや表面の質感もいいよ’
ギャラリーは、女性との契約を前向きに検討する事を決めました。
女性アーティストは、言う。 “やったー! こんなにうまく行くなんて!”
“とにかく、1番大事なのは、私のようなアーティストを信じてくれる人がいる
という事なのです!”