第2117回「あなたの一番古い記憶はなんですか?」梁を作るために選ばれた木材は、国内では最強の強度を誇る、北海道産と
長野産のカラマツ。
まず初めに、これらの木材の強度をグレーディングマシンと呼ばれる測定器で
1枚1枚、細かく測ります。
次に、強度が高い木材の中でも、特に強いものを選び、梁の曲線の外側に
あたる部分に配置します。
この部分(梁の外側)は、曲げた際に、1番、力が加わり、破損が生じやすい
ためです。 いわば、強度のカスタマイズです。
“やっぱり、産地によって、多少、バラつきありますので…”
“曲げる力に対して、外が効いてくる… 中よりも、こう曲げる力に対して…”
“で、外を強くする。 木も、適材適所で、有効に使っているのです”
木材に接着剤を塗り、いよいよ曲げの加工です。
こちらは、集成材を曲げるための油圧式のプレス機。
今回の梁の湾曲に合わせ、オリジナルの型を作りました。
これで一体、どうやって曲げるのでしょうか?
まず初めに、集成材の真ん中の部分を押して行きます。
そして、集成材の左右に、逆方向の圧力をかけ、曲線を作り出します。
薄い板を使って強度をうまく組み合わせた集成材だからこそ、できる技です。
最後に、接着剤が完全に固まるのを待つのに、24時間。
こうして、木材が一体になり、強固な集成材となるのです。
そして、ついに… 見事なカーブを描いた集成材が出来上がりました。
2017年11月、有明体操競技場の工事が始まりました。
オリンピックの競技場としては、最も遅いスタートでした。
納期まで2年。 ギリギリのスケジュールです。 まず行ったのが、梁の接続。
長さ13メートルの集成材を、現場で5本、つなぎ合わせます。
それをリフトアップし、両脇にある2本と合わせて、およそ90メートルの梁に
します。 とりわけ気を使ったのが、接合部です。
現場を指揮する所長は、言う。
“この13メートルで木を、つなげて行くのですが、その接着面が、0.5度でも
上の方に行ったら、そのまま(梁が)上に行ってしまいますよね…”
つまり、接続部が少しでもズレると、キレイなカーブを描けず、屋根の曲線と
ズレてしまうのです。
そこで、建築士とも議論や実験を重ねながら生み出したのが、この接合部。
梁をつなぐ、鉄筋の長さや太さの組み合わせを変えて、何度も実験を繰り返し
ました。 そして… 見事に、計算通りの曲線を描く梁が、つながりました。
工事開始から、10カ月後の2018年9月。
ようやく、梁を屋根の高さにまでにリフトアップする段階に、こぎ着けました。
しかし、ここで思わぬ事態に見舞われます。
巨大な木の梁は、鉄の素材と違って、ちょっとでも余計な力が加わるだけで、
破損の危険が生じるのです。
リフトアップの担当者は、言う。
“鉄というのは、ちょっとねじれても、戻るじゃないですか…”
“木というのは1回ねじれたら、そんなに弾性がないので、割れたり、欠けたり
という風になってしまうので… まぁ、気を使いますよね…”
職人たちが、木材の扱いに慎重になるあまり、1つの梁を設置するのに、
2カ月以上も、かかってしまいました。
このままだと… 納期が予定より半年、遅れてしまう。
現場を指揮する所長は、言う。
“みんな、焦りましたね… 本当に終わるのかなって…”
“2年じゃ、終わらないって… じゃあ、どうしようかなって…”
そこで所長は、昔ながらの、ある方法で解決しようと、職人たちのリーダーに
声を掛けました。 その秘策が、これ… みんなで酒を飲もう!というのです。
月に1回、開かれた飲み会。 職人たちは、最初は、いぶかしんでいました。
リフトアップの担当者は、言う。
“のん気に飲んでいる場合ではないのではないかなと…”
“飲んでいる暇があったらとりあえず現場で1本でも2本でも(梁を)かけた方が
いいのではないのかと思いましたけど…”
しかし、この飲み会には、ある効果がありました。
“最初は、現場始まって、どうしてもギスギスするのですが、その飲み会を
開いていただいたおかげで、みんな言いたい事を言えるようになって…”
この事が切欠となり、普段は自分の持ち場でしか作業しなかった職人たちが
他の部署の仕事まで手伝うようになったのです。
現場を指揮する所長は、言う。
“半分の時間で、出来るようになりましたね…”
“お酒は武器ですよ。 本当に、助け合う力がグッと出ますよ!”
そして、遅れを取り戻し、2019年10月、無事完成!
予定通り、およそ2年で終える事が出来ました! 世界最大級の木造の梁。
この完成の裏にあった、職人たちの団結力こそ、ニッポンの底力です!
職人たちが集まった団結力もすごかったのですが、細かい木が集まった
集成材がありましたよね?
実は今、国の政策でも、もっと、この日本の木造を使った建築物を、もっと
増やそうという動きがあります。
例えば都心に70階建ての木造ビルを建てるという構想も発表されています。
日本の建築物は、元々は木造建築なので、こういった木の建物が都内に…
もしくは日本全体に色々と増えて行くというのは、良い事だと思います。
そうなれば、世界に、かなりのアピールになると思います。
日本は森林大国ですから、まさに日本ならではの底力が、これから期待され
ます。