第2117回「あなたの一番古い記憶はなんですか?」銅板は、熱により伸縮するので、年月が経つと、つなぎ目に隙間ができ、
そこから雨水が染み込み、木材を腐らせたのです。
場所によっては、雨漏りが発生していました。
今回の改修工事では、こうした問題も、解決しなければなりませんでした。
その大役を任されたのが、こちらの会社。
日本では珍しい、屋根専門の会社です。
ステンレスなどの金属屋根を得意とし、デザイン性に富み、施工もしやすい
素材を、数多く開発。 世界からも注目を集める会社です。
これまで、国内では、10万件以上の独創的な屋根を手掛け、国外でも120件
もの建築物の屋根を手掛けて来ました。(モルディブ共和国マレ島の体育館/
岐阜県多治見市のモザイクタイルミュージアム/スリランカの国会議事堂など)
その原動力となっているのが、こちらの製品。
鉤(はぜ)と呼ばれる、ステンレスなどの金属板を、はめ合わせる仕組みです。
ここが、 V の形になっているのが特徴です。
まず、特殊な形に加工された金具に、2枚の複雑に折り曲げたステンレス板を
差し込みます。 そして、金具の出っ張りに、ステンレス板を引っ掛けます。
別のステンレス板を上から差し込み、両端の板を覆うようにします。
たった、これだけで、ステンレス板が、金具に、しっかりと留まり、強い力が
かかっても、外れないのです。
一般的な方法で接合した金属板と、強度を比べてみました。
上に持ち上げ、どれだけの圧力に耐えられるか計測。
一般的な方は、5900N(ニュートン)で破損。
V字の鉤(はぜ)は、8000N(ニュートン)。
条件にもよりますが、風速100メートルの風にも耐える強さです。
更に、こんな優れた特徴もあります。
こちらは、特殊な鉤(はぜ)のステンレス板です。
どうです? 職人が踏むだけで、固定されて行きます。
ネジやビスで、いちいち固定しなくても、簡単に設置できるのです!
そんな画期的な鉤(はぜ)のアイデアを考えたのが、こちらの会社の会長。
会長は、1965年、23歳で板金会社を創業。 当初は、牛小屋が工場でした。
持ち前のアイデア力で、業界屈指のメーカーにまで成長させたのです。
そのアイデア力で、これまで取得した特許数は、なんと、4000件以上にも及び
ます。
“(考えるのは)ほとんど寝ている時… 寝ている時は、雑音が入らないのです”
“もう現場に来ると、色々と入って来ると、ごちゃごちゃになるから大体、迷う”
“そんなに難しいと思った事はないのですよね… ひらめきは早い…”
会長のアイデアを製品化しているのが、こちらの技術センター。
あの鉤(はぜ)も、いくつもの試作品を作りながら、開発されました。
その製品化に向け奮闘した1人、技術センターの参事です。
発端は、1983年。 会長から送られて来た、1枚のFAXでした。
そこには、特殊な鉤(はぜ)のアイデアが、イラストで描かれていました。
参事たち技術陣の悪戦苦闘が、その日から始まりました。
“これを見てから、慌てて全員で協議しながら… これを作るために、みんな
走るわけです”
さまざまな試行錯誤を繰り返しながら鉤(はぜ)の改良が進められてきました。
こちらは、初期型を改良した、第2型(1990年)。
シンプルな形状で、大型台風に耐えるだけの強度は、ありませんでした。
改良を重ね、出来上がったのが、第5型(1992年)の鉤(はぜ)。
“形状が、すごい複雑に改良されたのが、こちらのものになります”
この形状にした事で、強度は向上しましたが、取り付けも複雑になってしまい
ました。 そして、現行の第7型(V字型の鉤)。
接合部分をVの形に折り曲げた事で施工がしやすく、巨大台風にも耐えられる
性能を獲得する事が出来ました。
更に、この形には、屋根にとって最も重要な問題、雨水の漏れに対応する
機能が備わっています。
水をかけると、Vの形に折り曲げた部分から、流れ出てきます。
雨が、ステンレス板の隙間から、内側へと流れ込んでも、Vの形に折り曲げた
鉤(はぜ)の溝で止められます。
中央部分に水が入り込む事なく、軒まで流れて行きます。
まさに、鉤(はぜ)が、樋(とい)の役目をしているのです。
この鉤(はぜ)の技術によって、屋根の最大の敵だった、水漏れ問題を見事に
解決できました!
画期的な鉤(はぜ)のアイデアを考えた会長は、言う。
“まず、他人の真似をしない。 これは信念です”
“真剣に考えれば、技術は、いくらでも生まれて来ますよ…”
新たに生まれ変わった、日本武道館。
そこには、知られざる知恵と工夫がありました。