第2121回「去年の今頃は何をしていましたか?」えん戦気分の広まっていた軍隊からも数万人の兵士が加わり、帝政ロシアは
崩壊。 皇帝一家は、幽閉された。
そして10月。 レーニンらによって、共産党政権が樹立した。
レーニンが唱えたのは、万人が平等に暮らす、社会主義の理想国家だった。
そのために、女性の地位向上も強く訴えた。
レーニン青年婦人論 より。
“婦人の家庭生活は、毎日、毎日、無限のくだらない、細かい事の犠牲に
なっています”
“もし男性が、その仕事に少しでも手を貸す事にすれば、どんなにか婦人の
骨折りと労苦を軽くする事が出来るでしょうか”
“私たち男性は、封建的な主人の概念を徹底的に清算しなければならない”
“党の中からだけではない。 大衆の中からも根絶する必要があります”
そのころ戦場では、新たに参戦したアメリカが、圧倒的な軍事力でドイツ軍を
次々に撃破し、勝敗を決定づけようとしていた。
アメリカの膨大な軍事費を支えていたのは、100億ドルも発行された公債
だった。
これは、公債の購入促進のために政府が行なった、遊説ツアーを記録した
ニュース映画である。 ある女性が登場すると、次々と、お金が集まった。
メアリー・ピックフォード。 ハリウッドで初めて100万ドルを稼ぐ女優となり、
アメリカの恋人と呼ばれた大スターだった。
ピックフォードは、政府の求めに応じてアメリカ各地を駆け回り、公債の購入を
呼びかけた。 ある町では、1万の人々が、100万ドル分の公債を購入した。
革命が成し遂げられたロシアで、ある一家が処刑された。
ロシアを治めていた、ロマノフ家である。
そこには、美貌の4人の皇女も含まれていた。
一家が銃殺された民家から、皇女たちの読んでいた聖書が見つかった。
長女オリガの手で、一編の詩が書き込まれていた。
オリガの手記 (最後のロシア皇帝) より。
“神よ、我らに耐え忍ぶ力を授けたまえ。 この嵐の暗黒の日々に、人々の
迫害と、死刑執行人の拷問に、耐え忍ぶ力を授けたまえ”
“そして謀反の動乱の中で敵が我らを略奪する時に恥辱を耐え忍べるほどの
堅固な意志を授けたまえ” 1918年11月11日休戦協定成立。
ドイツの降伏によって、4年半に及んだ戦争は終わった。
女性たちは、次々と仕事を解雇された。
復員して来た男性の再就職を優先するための、国や企業による措置だった。
女性たちは、再び、家庭の中へ帰って行った。
国力を使い果たし、消耗しきっていたヨーロッパに代わり、世界のリーダーに
躍り出たのはアメリカだった。 アメリカは、空前の繁栄を遂げる。
次々に発明される電化製品は、主婦に自由な時間をもたらした。
通信販売が登場したのも、この時代。
地方でも、マンハッタンでも、同じファッションをする事が出来るようになった。
3万5000もの商品を満載したこのカタログは郵便箱に入った世界一の百貨店
と呼ばれた。 新たな娯楽として定着したのが、映画である。
音声付きの映画トーキーが生まれ、数々の名女優が銀幕を飾った。
女優の美しさを引き立てたのが、化粧師マックス・ファクター。
あら隠しのために、メークアップ術を開発した。
マスカラ・リップブラシなどの化粧用具が、瞬く間に、一般女性へと広まった。
短い髪と、スカートが流行。 美顔術やパーマネントも発明された。
美容師が、高額納税者に名を連ねるのも、この時代の特徴である。
そして1920年。 女性が投票する初めての大統領選挙が行われた。
それまで、一部の州でしか認められていなかった女性の参政権が、全国で
認められた。 全米女性党の運動家の言葉が残っている。
全米女性党アリス・ポールの新聞インタビュー より。
“この大いなる勝利によって、自立のための戦いが全て終わったのだと、
女性たちが思ってしまうのは危険だ。 私たちは、もっと遠くまで行けるのだ”
一方、ヨーロッパは、大戦のダメージによって、深刻な不況に陥っていた。
特に、経済状況が悪かったイタリアで、支持を集めた1人の政治家がいた。
ファシスト党を率いる、ムッソリーニである。
女性は母親となり、家で子供を育てるべきだという復古的な女性観を掲げた。
“ファシズム体制下のイタリアで、クリスマス・イブに母と子に捧げる祝典が
行なわれました”
“会場は大盛況で、どの席も大勢の母親と子供たちであふれかえっています”
これは、後にムッソリーニが定めた祝日、母と子の日に行なわれた式典の
映像である。
ムッソリーニは、双子・3つ子への報奨金や大家族の家庭の授業料の無償化
など、子育て支援政策を、次々に打ち出して行った。
ムッソリーニの妻、ラケーレの映像が残されていた。
ラケーレは、夫の掲げる女性観に深く共鳴し、ファシズムが描く女性像を生涯
貫いた。
ラケーレの自伝 より。
“彼も、女は、ある限度以上に、社会へ出るものではないと考えていました”
“その役割は、家庭内にとどまるべきだというのです”
“母親は、歩き始めた子供たちを支える土台であり、柱なのです”