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第2121回「去年の今頃は何をしていましたか？」
大恐慌は、世界を奈落の底に突き落とした。

近づく戦争の足音。　女性たちも巻き込まれて行く。

世界恐慌の影響が、最も深刻だったドイツで、急速に台頭したのが、ナチス
であった。

選挙による政権獲得を目指すヒトラーが目を付けたのは、選挙権を得た女性
たちの票だった。これは、演説のポーズを練習しているヒトラーの写真である。

ヒトラーは演説の話し方だけでなく、どのような身振りが大衆に訴えかけるか
まで研究したいた。ヒトラーの演説を聞いて陶酔状態になる女性が続出した。

演説の練習を行っていた写真館で、ヒトラーは、1人の女性従業員と出会う。

23歳年下のエヴァ・ブラウン。　ヒトラーはエヴァに言い寄り、愛人にした。

体操が特技で、自由奔放なエヴァ。

将来の夢は、ハリウッドで女優になる事だった。

ヒトラーは、我が闘争の印税で買ったアルプスの別荘にエヴァを住まわせた。

エヴァは、選挙で全国を飛び回るヒトラーに会えない事を悩んで、2回も自殺
未遂を図るほど、この男を慕った。

だが、女性票を重視するヒトラーは、エヴァとの関係を秘密にした。

この別荘にも、使用人という体裁で住まわせた。

ナスチが、国民の支持を得るために最も利用したのが、プロパガンダ映画
だった。 (意志の勝利/1935年)

ナチスの映像戦略を担った、1人の女性がいる。　レニ・リーフェンシュタール。

ヒトラーが、その才能を見い出した映画監督である。

Q： あなたは、ヒトラーの愛人ですか？

“新聞が書いているだけよ！　そんなんじゃないわ！”

レニの才能が最も発揮されたのは、1936年のベルリンオリンピックであった。

ヒトラーはレニに、映画製作の全権を与え、膨大な資金を提供する。

レニが用意したスタッフは、カメラマンだけで60人。

最新の特殊な機材も、ふんだんに投入した。

これは、小型のカメラを搭載して飛ばした、無人の気球。

巨大なメイン会場の全貌を、映像で伝えようとした。

更にレニは、望む映像を撮るために競技の再現まで求め、選手に演技指導を
行う事もあった。

こうして生まれたのがオリンピアの通称で知られる民族の祭典、美の祭典の
2部作である。 (1938年)

最新の撮影技術と、斬新な演出による映像表現は、世界の人々の、どぎもを
抜いた。

史上最高のドキュメンタリー映画と絶賛され、ベネチア国際映画祭では、
最高賞を獲得した。

ヒトラーの映像戦略には、日本人女性も一役を買っている。

これは、日独合作映画、新しき土。

日独防共協定の成立に合わせて製作された、国策映画である。

主演を務めたのは、女優の原節子。　これが初主演作品であった。

無名だった原節子が抜てきされたのは、ドイツの観客にも受け入れられる
西洋的な顔立ちを持っていたためだといわれる。

原節子の役柄は、武家の家に育ちながら、ドイツ語に堪能な大和なでしこで
あった。

原節子の演技はドイツの新聞各紙に絶賛され、観客動員は600万人を記録。

100人の外交官の働きに匹敵するといわれた。

ベルリンで行われた上映会には、ヒトラーをはじめ、ナチス幹部が出席。

原節子もベルリンに渡り、ドイツ語で舞台挨拶を行った。

原節子の舞台挨拶　より。
“ベルリンに参りました事を、私は、とても幸せに存じます”

“皆様が、この映画をお気に召して頂けると嬉しいです”

第2次世界大戦で快進撃を続けるドイツ。

ヨーロッパは、ヒトラーの支配下に落ちる。

パリの大通りを我が物顔で滑走路代わりに使う、ドイツ軍の軍用機。

配給の長い列も見える。　この建物は、ドイツ軍を相手にしたキャバレー。

多くのフランス人女性が、生きるためにドイツ人に近付いた。

ココ・シャネルは、ドイツ軍諜報機関の高官の愛人となり、高級ホテルで
何不自由ない暮らしを送った。

そして、自らもドイツ軍の協力者となり、諜報活動に携わった。

暗号名は、ウエストミンスター。　シャネルには、ある思惑があった。

当時、シャネルが作った香水が爆発的に売れていたが、利益の大半は、
ユダヤ人の共同経営者の手に渡っていた。

シャネルは経営権を取り戻してほしいと、ナチス・ドイツに協力するフランス人
の役人に訴えた。

シャネルが役人に宛てた手紙　より。
“自分で作った香水なのに、私には不当に少ない利益しか与えられていま
せん。　私に対する理不尽な扱いを、改善して頂く事を望んでいます”

イギリスはドイツと戦うために、これまでのような志願制ではなく、史上初の
女性の徴兵・徴用を行った。 敵と直接戦う部隊にも、女性たちが配属された。

当時のイギリスの首相ウィンストン・チャーチルは、言う。
“ヒトラーは、とんでもない悲劇と恐怖・犯罪を、ヨーロッパだけでなく世界中に
もたらしている”

チャーチルの娘メアリーも、ロンドンの対空砲部隊の一員となった。

そして、ベルギー、ドイツへと従軍する事になる。

その後、父の副官として、ポツダム会談に同行している。

後にイギリス女王となる女王エリザベスも軍隊に志願した。 まだ18歳だった。