FC2トラックバックテーマ 「今使っているスマートフォンケースについて教えて!」政府暗号学校には、ケンブリッジ大学を中心に、若手の優秀な数学者が集め
られていた。
中でもチューリングは、大型新人として期待されたが、その一方で、エキセン
トリックな性格で注目された。
職場でも、プライベートでも、1人で過ごし、自分よりも知的レベルが低いと思う
人間とは付き合わない。
花粉症だったため、ガスマスクを付けて、サイクリングに出掛けた。
その姿に、天才だが変人だと、評された。
その頃の政府暗号学校では、人海戦術によって1部の暗号を解読していたが
1週間もかかっていた。 その時には、既に、ドイツ軍の攻撃は終わっていた。
チューリングは、その役に立たなかった解読文に目を付けた。
分析を繰り返した結果ドイツが多くの決まり文句を使用している事が分かった。
その1つ、ドイツ語で天候を意味する、 WETTER (ヴェダー) 。
毎朝6時過ぎに、気象情報を暗号化して送っていたため、通信文に数多く
含まれていた。 暗号文の、どの部分が、WETTERに対応するのか?
人間が、手作業で探す事になった。
エニグマの構造上、入力された文字は、必ず違う文字に暗号化される。
そのため、どの文字とも一致しない箇所を探す。
WETTERにあたる暗号文が見つかれば、次にWETTERを、そのように変換する
設定を突き止める事になる。 しかし、これは大変な作業だった。
WETTER 6文字のヒントがあっても、設定には、天文学的な数のパターンが
あったからだ。
そこでチューリングは、人間の能力を超えた速さで設定を探し出す、新たな
機械を考案する。 暗号解読機、ボンブ。
それは、36個のエニグマを、同時に稼働させるというものだった。
歯車を高速で回転させ、暗号の設定を、自動的に1つ1つ試して行く。
設定を突き止めると、回転が止まり、結果が表示されるのだ。
1940年8月には、人手で1週間かかった解読が、1時間にまで短縮された。
翌年、Uボートの暗号解読にも成功した。
‘敵影なし。 翌朝までにコース070に引き返せ’
‘区画4925にて、1時間以内に攻撃開始’
チューリングの伝記を執筆した数学者は、言う。
“ボンブは、素晴らしい成果を上げました”
“しかし、現代のコンピューターの祖先とまでは、言えません”
“後に電子工学が実用化され大幅な計算スピードの向上が達成されて初めて
今のコンピューターが生まれるのです”
不可能とされた暗号解読を、見事に成し遂げた、チューリング。
だが、コンピューター実現に向けた本来の研究は、中断せざるをえなかった。
ようやく、エニグマの解読に成功した、イギリス。
だが、その事実は、極秘中の極秘、ウルトラ・シークレットとされる。
ドイツに気付かれれば、エニグマが改良され、再び解読不可能となる恐れが
あったからだ。 そこでイギリスは、さまざまな偽装作戦を実行した。
エニグマの解読によって、Uボートの位置が特定できても、わざわざ偵察機を
飛ばし、偶然、発見したように装った。
また、Uボートが水中に潜っていても検知できる中距離レーダーを開発したと
ウソの情報を流した。
チューリングをコンピューター科学の視点で研究する科学哲学者は、言う。
“偽装工作によって、エニグマが解読できている事を、何とか気付かれない
ようにしていました”
“そのために、多くの命が犠牲になったという話しもあります”
“攻撃のアリバイを作るために偵察機が来るまでUボートを攻撃できなかった
のです”
“偵察機を待っている間に、イギリスの船が、Uボートによって撃沈される事も
ありました”
イギリスは、チューリングが作ったボンブを更に進化させ、新たな暗号解読機
コロッサスを開発。
2400本の真空管を使う事で、ボンブよりも劇的に速い処理速度が可能と
なった。
このコロッサスの誕生が、史上最大の作戦と言われる1944年ノルマンディー
上陸の成功に決定的な役割を果たす。
ドイツ軍が、イギリスに最も近いカレーに戦力を集中させて連合国軍の上陸に
備えている事を、暗号解読で解明。
手薄だった、ノルマンディーからの上陸が決行された。
上陸を成功させた連合国軍は、ベルリンを目指し、快進撃を続ける。
1945年5月7日。 ナチス・ドイツが、無条件降伏。
チューリングの暗号解読は、戦争の終結に大きく貢献し、連合国を勝利へと
導いた。 しかし、この極秘作戦について語る事は、厳しく禁じられた。
チャーチルは、チューリングたち暗号解読者について、こう評している。
‘金の卵を産んでも、決して鳴かないガチョウたち’
戦後イギリスは、ドイツから没収した数千台のエニグマを解読できない暗号機
だと偽って、旧植民地などに普及させる。
そして彼らの通信を、ひそかに解読し、各国の内情を、つかんでいた。