FC2トラックバックテーマ 「金縛りにあったことある?」巨匠クラークにとって、初めて味わう苦行。
限界に達する中、ふとイメージが浮かんだ。
“ボーマンが子供へ逆行し、結末では、赤ん坊となって軌道上に浮かぶ”
キューブリックに話すと、乗り気だ。
“この楽観的見通しが、錯覚でない事を願う” …と、クラーク。
これで、終わりにしたかった。 しかし、更に2人の関係に悲劇が起きる。
ミュージアムの学芸員は、言う。
“これは映画の脚本ですが、実は、ナレーションが書かれています”
“クラークは大変な労力をかけ、ナレーションを、何ページも書きました”
物語が分かりやすくなるよう、丹念にナレーションを書いたクラーク。
そんな努力に対し、キューブリックは、ひどい仕打ちで返した。
“結局、ナレーションは、全く使われませんでした。 考え方の違いです”
“キューブリックは、視覚的に物語を見せようとしましたが、クラークは、言葉で
説明しようとしたのです”
説明ナシでは、物語が分からない! と、危惧するクラーク。
実際、クラークの小説版では、結末について説明している。
‘モノリスから、人間を含む多くの種族が誕生したのだ’
つまり地球外生命の目的は、モノリスの超常的な力で肉体を持った生命体を
精神のみの生命体へ進化させる事だった。
宇宙にいる多くの種族が、そうやって進化して来た。
人類も、ようやく、宇宙の一部になったのだと…。
しかし、キューブリックは、意味不明でいいと!
説明する事は、バカげた単純さだと、クラークに反論した。
未知の世界との遭遇が、台無しになると考えたのだ。
‘これでは魔法が消えてしまう’ 一切、妥協しなかった。
キューブリックとクラークの対立は平行線のまま、映画公開の日を迎えた。
1968年4月4日公開。 果たして、どんな結果をもたらしたのか?
キューブリックの娘は、言う。
“誰も見た事のないような作品だったから、観客は理解できず、困惑していま
した。 途中で、映画館から出て行く客も、いました”
“父は、すごく不満で、その数をカウントしていましたよ…”
クラークは、正しかった。 懸念した通り、理解不能だったのだ。
映画の舞台裏を取材した作家ピアース・ビゾニーは、言う。
“映画会社の重役たちは、皆、退屈そうで、ピリピリしていた”
“さすがのキューブリックも、焦ったようだ。 判断を誤ったと、怖くなったんだ”
キューブリックは、落胆する。
なにしろ、この作品に4年の月日と、莫大な製作費を、つぎ込んでいたのだ。
ところが数日後、意外な展開を見せる。
キューブリックの娘は、言う。
“2~3日後、ラジオのDJが、この映画、見なきゃダメだ!すごいぜ!と、言い
始めたのです”
“すると映画館の前に、10代20代の若い男性が、長い列をつくるようになり、
一気に殺到しました。 若者たちの支持を得たのです”
“これまでにない問題や疑問を投げかける、斬新で勇敢な映画として、評価
されたのだと思います”
若者たちは、解説を聞きたいんじゃない。
映画を見て、ボーマンと同じように不思議な体験をし、未知の世界に興奮した
のだ。 大成功だった!
キューブリックのもとには、ファンから、数多くのメッセージが寄せられた。
キューブリックの娘は、言う。 “手紙の1つです”
‘キューブリックさん、考えや感じ方を強制しない映画、ありがとう’
‘あなたが映画をつくりましたが、意味するところは、私たちが担います’
キューブリックの娘は、言う。 “本当に、その通りだと思います”
“映画を見た人たちが、自由に何かを感じ取る。 それこそが父の望みです”
“きっと、この手紙に感激したでしょう”
若い世代が夢中になった大きな要因は、何と言っても、圧倒的な映像の世界
にありました。 誰も見た事がない未来の世界。
それを映像化する事は、並大抵の事ではありません。
当時は、ようやく人類が地球を飛び出し、その周りを回っただけで、宇宙ステー
ションは、夢のまた夢。
更に、SF映画に今では欠かせないコンピューター・グラフィックスも、まだない
時代でした。
にもかかわらず、末来の世界をリアルに表現し、圧倒的なスケールで描き
きったのです。 でも、一体、どうやって? それが、第2視点です。
この難題に挑んだのが、撮影現場のスタッフたち。
キューブリック監督の無理難題に応えた彼らなくして、映画の成功はあり得ま
せんでした。
未来の世界を映像化しようと、悪戦苦闘した、撮影スタッフの長き闘いの
アナザーストーリー。
半世紀前、この映画に、美術スタッフとして奮闘した男、ダグラス・トランブル。
Q: 製作は極秘でしたか? “あぁ、何年もずっと弁護士に見張られていたよ”
未知との遭遇など、数々の大作で特撮を手がけてきた、SF映画のレジェンド。