FC2トラックバックテーマ:「最近発見したことは?」限界に挑み続けるアスリートたち。 科学の進歩とともに身体能力を高め、
次々と記録を塗り替えて来ました。
しかし今、トップアスリートたちは、かつてない状況に直面しています。
記録は伸びず、勝利は、ごく僅かな差で決まるのが当たり前。 トップレベルの
スポーツは巨大ビジネスとなり、アスリートへのプレッシャーは増大。
彼らの肉体は、これまで以上に追い込まれています。 “成績にこだわり
すぎるから、スポーツは、すごくキツイものになってしまったのです”
観客を満足させスポンサーが利益を得るために、試合の数は増えています。
アスリートの潜在能力を更に引き出すため、各国の競技連盟が注目している
のが、最先端のスポーツ科学です。
“優れたアスリートは、自分の体を熟知しています”
医師や研究者たちは、アスリートの能力を高める方法だけでなく、彼らの体を
守る方法も探究しています。
競技中の体温や睡眠、そして筋肉の酸素量やリハビリの研究によって、
人間の体には、知られざる力が秘められている事が、分かって来ました。
“心拍数は必ず測定します。 起きて活動している時の心拍数は、睡眠中より
多い事が分かっているからです。レース中の選手の状況を正確に分析する為
事前に有酸素運動をしてもらい運動中の呼吸を分析します。酸素の摂取量や
二酸化炭素の排出量などを測定する事で選手のエネルギー消費や呼吸数に
ついての状況を把握する事ができます。このテストで得られた呼吸の数値や
心拍数なども、合わせて分析する事で、レース中に選手が活動しているか、
眠っているかを特定できるのです”
選手は、何もする必要はありません。 測定器のデータは、ヨットに設置した
パソコンに転送され、詳細な睡眠記録が生成されます。
“見ると、すぐ分かるので助かります。 疲れ切ってるから仮眠を取ろうとか、
今は冴えてるから、このまま寝ないで対処できる等と判断する事ができます。
ヴァンデ・グローブで上位に食い込むには、肉体を限界まで追い込まなければ
なりません。とてつもなく危険で過酷なレースです。 昔の様に、のんびりした
レースではありません”
前回、途中棄権を余儀なくされた、この選手は、2021年、4位でフィニッシュ。
“ついに、やりました。 でも、ヴァンデ・グローブへの挑戦は、これからも続く
でしょう”
メディアやスポンサー、観客を満足させるパフォーマンスを追求するアスリート
たちは、肉体を限界まで酷使します。 時に、それは残酷な結果を招く事も。
アイソキネティック・メディカルグループは、FIFA認定のスポーツリハビリセンター
です。 ここのスポーツドクターは、負傷した選手が試合に復帰できるよう、
手助けしています。
“30~40年前と、今のサッカーの試合を比べると、とても同じスポーツとは思え
ません。 動きが速くなって、ケガのリスクが増えました”
ケガの後、いかにケアするかが、選手生命を左右します。このサッカー選手は
身をもって、それを実感しました。
“1つケガを克服すると、また、すぐに別のケガをしました。 希望の光が見えた
と思ったら、すぐ、また暗闇に突き落とされるような感じでした。 1番、最近の
大ケガは、前十字靭帯(じんたい)断裂です。 試合中でした。 ジャンプして
着地した時、ブッと裂けたような感覚がありました”
前十字靭帯断裂は、アスリートが最も恐れるケガです。 ひざ関節の内側に
ある、この靭帯には、関節の情報を脳に伝えるセンサーがあり、これによって
筋肉が正しく動きます。
手術後、1年ほどで競技に復帰できる場合もありますが… ケガをする前の
状態に戻すのは容易ではありません。
“まず、ひざを安定させるために、筋肉を強化しなければなりません。 次に、
筋肉を制御する神経のコントロール。そして運動動作のトレーニングに取り組
む必要があります。これらの段階の、どれ1つとして疎かにしてはなりません。
リハビリが十分でないために、後遺症に苦しむアスリートが大勢います。手術
後のリハビリの重要性は、驚くほど過小評価されています”
ケガの回復を助け、パフォーマンスを向上させるために、グリーンルームと
呼ばれる、特別な部屋が作られました。
“個々の筋力を、更に詳しく調べます。準備運動をしてもらった後、単純な動き
から複雑な動きまで、いくつかの動きを分析します。 スクワットや方向転換
などです”
グリーンルームには、ハイスピードカメラが設置され、床全体に圧力板が設置
されています。 ケガで生じた体のゆがみを、アスリート自身が映像で確認し
修正する事ができます。
“私たちの体は、極めて単純な方法でケガした部分を補おうとします。つまり、
体の片側が弱くなっていたら、反対側が補おうとするわけです。例えば手術を
受けた患者は、患部をかばって痛くない方に重心をかけがちです。 そして、
このようにケガをかばう癖が、新たなケガを呼ぶ事が分かったのです”
この方法は、選手もトレーナーも気付かない、僅かな欠点を教えてくれます。
実際、前十字靭帯の断裂は、僅かな姿勢の崩れや、体のコントロール力の
低下で起こる事が、ほとんどです。
“グリーンルームでの動作分析評価のおかげで、私たちが見ているアスリートが
ケガを繰り返すリスクは大幅に減りました。 もちろん、ケガのリスクをゼロに
する事はできませんが、こまでに得られたデータから、これが良い方法だと
確信しています。 長年の研究の結果、不十分なリハビリが、どんな問題を
引き起こすかが分かりました。 大切なのは、まずケガをしないようにする事。
そしてケガをしてしまったら個々の状態に合ったリハビリを真剣にやる事です”
試合が増え、プレッシャーが増し、ケガが増える… スポーツを取り巻く状況が
大きく変わった今、選手たちは、これまで以上に科学を必要としています。
人体の知られざる側面を探究する専門家たちは、スポーツ界を、むしばむ闇
との闘いに足を踏み入れたのかも知れません。 ドーピングです。
“スポーツ選手のキャリアは不安定です。 例えばサッカー選手はレギュラーを
外されたら、すぐに市場価値が下がります。 トップアスリートは、精神的にも
厳しい状況に置かれているのです。 ドーピングに手を染める選手はある意味
犠牲者だと思います”
ドーピング市場は巨大です。 年間、数トンものドーピング薬物が製造されて
いるといわれ、WADA=世界アンチドーピング機構は、対応に苦慮しています。
“なぜドーピングが、なくならないのか? 1つには、儲かるビジネスだから。
そして、取り締まる体制が整っていないからです”
“WADAは、1999年に創設されました。でも、ドーピング検査の陽性率は、それ
以前も、それ以後も2%で全く進歩がないのです。 世界中の選手の2%しか
ドーピングをしていないなんて、誰が信じるでしょう?”
“ドーピングの問題は、その定義にもあります。ドーピングの定義は、リストに
記載された禁止物質や方法を使って競技能力を高める事。つまり競技能力を
向上させるけれどリストに載っていないものは、定義上、ドーピングではない
のです”
スポーツサイエンスの進歩によって、アスリートたちは不正な方法に頼らずに
能力を最大限に発揮できるようになりました。
一方で、発見されにくい、巧妙なドーピング方法の研究も進んでいます。
“細胞や遺伝子を操作する新しい形のドーピング方法が生まれているのです。
近い将来、ドーピングは様変わりして、薬物も使われなくなるでしょう。 競技
能力を増幅させる遺伝子を、細胞に組み込む事さえできる様になるからです”
それが早くも現実になろうとしています。アメリカのサンディエゴ大学と、スイス
連邦工科大学の研究者たちは、マウスの実験で、筋肉の増加を抑制する
遺伝子を取り除く事に成功。
遺伝子操作されていないマウスより、6割、速く走るマウスをつくり出しました。
もともとは、病気の治療のための研究でしたが、その成果は驚くべきもので
した。 それまでの実験と違って、好ましくない副作用が出なかったのです。
“これによって、他の遺伝子操作への扉が開かれました。 例えばレシリンは
ノミの後ろ脚にあるタンパク質で、これがある事で、体高の30~200倍の高さ
まで跳ぶ事ができます。 人間に、この遺伝子を組み込めば、エッフェル塔の
高さまで跳べるかも知れません。 またカブトムシの中には、体重の数十倍の
重さを持ち上げられる遺伝子を持っているものもいます。 こちらも人間に組み
込めば、体重100キロの人なら、ゾウと同じ重量を持ち上げられるかも知れま
せん。 もちろん、このような遺伝子操作には巨額な費用が必要になりますし、
倫理的な問題を引き起こします。しかし、こうした議論があること自体、今現在
これを研究している人々がいる事を示しています”
“今日、スポーツの魅力は、驚異的なパフォーマンスを達成するまでの道のり
にあります。 その道のりは、どんどん短くなっているようです”