FC2 トラックバックテーマ:「あなたが冬を感じる瞬間はいつですか?」全世界を恐怖に陥れた、新型コロナウイルス感染症のパンデミック。 一刻も
早い終息を目指し、各国研究機関は、さまざまなアプローチでワクチン開発に
着手した。
イギリスオックスフォード大学は、研究を先行させていたウイルスベクターワク
チンを、アストラゼネカと共同開発。 オーストラリアクイーンズランド大学は、
B型肝炎の治療などでも使われている、組み換えタンパクワクチンを選択。
中国は、何十年も前から使われて来た、実績のある不活化ワクチンで開発を
急いだ。 そして、メッセンジャーRNAを利用する全く新しいワクチンの開発に
挑んだのが、アメリカの製薬会社ファイザーとモデルナ。
大規模な臨床試験が始まる一方で、治験の結果を待つ事なく大量に製造し、
輸送するための先行投資も行われ、開発競争は熱を帯びて行った。
チームは、感染が拡大している別の国で、第3相試験を行う事にしました。
当局からは、早く結果を出すようにと、せかされています。
もちろん、非常に難しい状況に直面する事はあります。 もう疲れて前に進め
ないと思ったら、私は立ったまま少し眠るのです。 頭の中が、グチャグチャに
なったように感じても、目をつぶって一瞬待てば、解決策が浮かんで来ます。
まるで、酸素を吸ったみたいに。
2020年の秋。 世界は、ワクチンを待ちきれなくなっていました。
‘もう少しのところですが、まだワクチンはできていません。 成功するまで
厳しい行動制限が課されます’
急ごしらえのワクチンなど、打たれたくないという人がいる一方で、明日にでも
ワクチンを打ちたいという声もいります。 大量の仕事を抱えているのに、
次に何が起こるか分からないのは、ツライものです。
イギリスは、2度目のロックダウンに入りました。 アメリカでは、大統領選挙が
近付いています。 プレッシャーは更に高まります。
当時の大統領演説より
‘モデルナもファイザーも、非常に好調! ワクチンは10月中に完成するかも
知れません’
政治は、科学に口出しすべきではありません。 最終的には、科学に従うべき
なのです。 製薬会社には、もっと速く進めるようにという政治的圧力がかかり
ました。 これは気が散るだけで、助けにはなりません。 やるべき事に、ひた
すら集中するのみです。
第3相臨床試験は当の研究者さえ、いつ結果が出るか分かりません。所定の
数の被験者が、新型コロナウイルス陽性になるまで、試験を継続しなくては
ならないのです。感染の状況は第3者機関がリアルタイムで監視しています。
感染者数が所定の値に達したとろこで、ようやく研究者は、ウイルスに感染
した人が、ワクチン群なのか?プラセボ群なのか?を知る事ができます。
これによって明らかになるのが有効性。 つまり、ワクチンにどれだけ感染を
防ぐ効果があるかです。私の1番嫌いなパート。ひたすら待っているだけです。
不安に、どう対処すればいいか?その方法を学んだので自分でコントロール
できる事と、できない事を分けて考えられるようになりました。
研究段階のデータは自分の裁量が大きいので不安を感じる事がありました。
でも今回は、3万人がワクチンかプラセボかを打たれて、街の中に出て行った
のです。 社会に答えを出してもらうしかありません。 私には何もできません。
問題に向き合い、皆で同じ方向に向かって一生懸命、努力している時は集中
しているので余計な事は考えません。でも必ず、結果はどうなるだろうと思う
瞬間がきます。そして無力感に襲われます。自分の手が届かないからです。
そこが運命の瞬間なのに、自分に出来る事は何もないのです。
ワクチン開発競争が始まって、間もなく10カ月。 1つの答えが出ました。
彼女は、ファイザーのCEOから電話を受けました。
彼は、こう言いました。 君に伝えなければならない事がある。 君たちが
開発したワクチンの有効性は、90%を超えていると考えていい。
‘この結果を待っていました。 90%の有効性があると証明されました’
私は舞い上がってしまって、笑いながら部屋じゅうを踊り回ってしまいました。
‘科学と人類にとって、素晴らしい日です’ 最終的な分析では、新型コロナ
ウイルスに感染した170人の被験者のうち、95%がプラセボ群でした。
‘今回初めてワクチンの予防効果が証明されました。クリスマス前にワクチン
の接種ができるというのは、かなり- 驚異的なペースですね’
心から安堵しました。よし、これでウイルスと闘える、パンデミックを制御できる
と思ったのです。 素晴らしい気分だったと… それしか言えません。
夜遅く、彼女が電話して来て、ついにワクチンが出来た!と言いました。
そこまでの有効性は予想していませんでしたね。 想像できる結果の中では
ベストなものでした。 うちのプレスリリースを見て、世界は安堵の溜息を
ついたはずです。
1週間後、モデルナの臨床試験結果も公表されました。 ウイルスに感染した
被験者が、所定の数に達したと確認されたのです。
‘モデルナがワクチンの暫定分析結果を発表しました。 有効性は、94.5%。
非常に高い数字です’
ある程度の効果は予想していました。 でも初めてヒト用ワクチンとして作った
ものが、94.5%の有効性というのは驚きました。 安堵の気持ちが、どっと
あふれて来て… それが、あまりに心地よかったので… しばらくの間、私は
じっと、その中に浸っていました。
2020年11月16日。 世界の感染者数 55,170,000 死者数 1,330,000
‘ワクチンの有効性の高さが報道され、各国は実用化に向け、準備を進めて
います’
しかし、モデルナとファイザーのワクチンだけでは、十分ではありません。
有効性が90%を超えるワクチンが、複数ある事は知っています。 素晴らしい
と思います。でもそれを、中国で使えるでしょうか?こうしたワクチンの中には
超低温で保管しなくてはならないものがあります。 その条件で集団接種を
行うのは、私たちには無理です。 北京のような大都市でも不可能です。
ワクチンは、実用的でなければ役に立ちません。 免疫の防護壁を築くのに
十分な人数に届けられなければ、感染症は制御できません。
世界の弱い立場の国々にワクチンを確実に届けようという国際的な枠組み
COVAX(コバックス)。 全員が安全になるまで誰も安全ではない。という理念
のもとに設立されました。
COVAXは、開発中の複数のワクチンに10億ドル以上を投資しました。中でも
オックスフォード大学のワクチンには、およそ4億ドルを出資。 冷蔵で輸送
できて、1回の接種に僅か3ドルしかかかりません。
クイーンズランド大学の組み換えタンパクワクチンも、支援を受けていました。
しかし、モデルナ発表の翌日、COVAXから連絡が入りました。
今、電話を切ったところです。 残念な知らせでした。 要するに…資金の打ち
切りです。 というわけで、私たちはCOVAXから外れました。 あのHIV診断の
せいです。 ガッカリです。 私たちのワクチン開発チームには… アフリカや
スリランカ等、COVAXに助けられる事になる国から来ている人が大勢います。
彼らはワクチンで世界に貢献したい、自分のコミュニティーに恩返しをしたいと
考えていました。あのワクチンが安全だという事は分かっています。メーカーは
もう何億回分も生産できる体制を整えています。
熱安定性が高いので、冷蔵で、どこにでも運べますが、ただ1つ、問題を抱え
ています。 HIV偽陽性が出るという問題を…。
3週間後、オーストラリア政府も、資金を引き揚げました。
‘今週、開かれた国家安全保障委員会で、最終的な決定が下されました。
クイーンズランド大学のワクチンは、開発続行が不可能となります。 国の
ワクチン計画から外れる事になりました’
開発競争から外れ、准教授は、世界のメディアと向き合いました。
“我々が隠す事なく対処した事で、ワクチンへの信頼が高まる事を願います。
今回の成果は目覚ましいものでした。胸を張ってそう言えます。残念でしたが
今は誇りに思います”
‘国産ワクチン探究の旅は終わりました。ウイルスの制御には成功しましたが
打ち負かす戦には敗れたのです’
研究者には、色々な役割があります。 ワクチンを作るのは、その1つですが
一般の人を教育するのも立派な仕事です。 例えば、一歩引いて、私たちは
出来る限りの事をしましたが、他にも良さそうなワクチンがいくつかあります。
だから、そういうワクチンを接種して下さいと発信する。それも私たちの大事な
役目の1つなのです。 ワクチンを作ってゴールにたどり着く事だけが、仕事
ではありません。
オックスフォード大学の准教授は、待ち続けていました。
11月22日、日曜日の夜です。もうすぐ結果が出ると思います。大手製薬会社
2社は、有効性の結果をすでに発表していて、うちも、もうすぐだと聞いていま
すが、まだ待たされています。 ワクワクしますけど、いよいよかと思うと不安
にもなりますね。
‘オックスフォード大学のワクチンは、ウイルスとの戦いの形を変えます’
オックスフォード大学とアストラゼネカのワクチンは、平均有効性70%と発表
されました。 ファイザーとモデルナの95%には及びませんが、これもまた、
効果の高いワクチンです。 ‘高い感染予防効果があります’
ホッとして、少し感情が込み上げました。 昨夜は、実は、悪い結果が出る
のではないかと心配していたのです。 そうなったら、ここまでの11カ月が
全て無駄になってしまいます。 結果が出せて良かったです。
開発を始めた時の目標は、有効性50%でした。 1年前に、有効性60%の
ワクチンに満足するかと聞かれていたら、満足すると答えたと思います。
合格ラインを超えた3つのワクチンについては、更に良い知らせがありました。
これらのワクチンは、入院が必要となるような重症化を防いでくれます。 命を
守ってくれるワクチンなら、進んで接種したいですね。 どのワクチンが、より
優れているかなどという事ばかりに、とらわれるべきではありません。 いくつ
ものワクチンがある事を、喜ぶべきです。 世界中の人に接種するには、
たくさんのワクチンが必要なのですから…。